2010年11月21日
更新の再開が延びます
筆者の周辺事情から、12月以降に、新作小説のブログ更新になります。相次ぐ予定の変更でまことに申し訳ありませんのですが、よろしくお願いいたします。
本館「みとく館 NAHA」(ゲーム記事/アニメ記事)と、「みとく館 まんが部屋」(筆者の日記ブログと、自作漫画等の公開)のほうは、随時、更新させていただいております。よろしければこちらへお出でいただけましたら、うれしく思います。
2010年10月29日
11月から更新再開の予定です
すみません。ずーーーーーっと、放置状態でした。
みいつ堂の新作第1回分は、出来上がってだいぶ経つのですが、扉絵のほうがなかなか。
秋の長時間テレビスペシャルのこともありまして、そうこうしているうちに今は土用中。
新作の公開は、土用明けが過ぎてからになります。11/6以降ですね。
それから、いろいろと小説ブログさんを参考にさせていただいてますので、「ブログとして読みやすい形式」での公開を考えています。
今のところ、筆者のこちらのブログでの描きおろし小説は、「みいつ堂」と「ラオラ編」2本だけで、あとは別扱いになります。
長らくこのブログを放置して、大変申し訳ありませんでした。
11月からの、更新再開の予定になります。
みいつ堂の新作第1回分は、出来上がってだいぶ経つのですが、扉絵のほうがなかなか。
秋の長時間テレビスペシャルのこともありまして、そうこうしているうちに今は土用中。
新作の公開は、土用明けが過ぎてからになります。11/6以降ですね。
それから、いろいろと小説ブログさんを参考にさせていただいてますので、「ブログとして読みやすい形式」での公開を考えています。
今のところ、筆者のこちらのブログでの描きおろし小説は、「みいつ堂」と「ラオラ編」2本だけで、あとは別扱いになります。
長らくこのブログを放置して、大変申し訳ありませんでした。
11月からの、更新再開の予定になります。
2010年10月03日
2010年09月25日
2010年09月23日
2010年09月23日
2010年09月21日
ネンネン見参! (ブログ小説「ふざけろ!アクネンネン」)
アクネンネン「さて、下見に参ったぞよ。」
アクネネカ
「筆者がこちらの更新をしないでいる間に、なかなかにぎやかになりましたですの。」
アクネンネン
「こちらの小説ブログではじゃな、本館や、まんが館では言えぬ、あんなコトやこんなコトを、ひそひそとな。のう? 姉上?」
アクネネカ
「あら、いやですわ。そ、そんな、わたくし、花もはじらうムスメ盛りですのよ!
こんなコトや、あんなコト、つまり◯△○□や、ピーーーッなどと申しますの?
ネネカは、はずかしゅうございます。」
アクネンネン
「こういうセリフを嬉々として、目をギラギラさせてしゃべっている姉上のハートは、やはりドス黒さ全開じゃな。
わらわたちは、やはり悪役なのじゃからして。」

アクネネカ
「お色気ネタではありませんので、そこんトコよろしゅうに、ですの。」
アクネンネン
「さて、またしばらくここは放置じゃな。
まあ筆者の気分次第、中身が出来次第よの。
いわゆるひとつのマイペースじゃの。」
2010年09月21日
半熟妖精のタマゴ 2010年 9/19 販売デビュー
長期間ほったらかしですみませんでした。
これからちょくちょく、雑記のようなものも書いていきたいと思います。
ブログ投稿分の小説をお読みいただく場合は、それぞれの「カテゴリーをクリック」で、お願いします。
さて、第一歩を記しました。
2010年9月19日(日曜日)、場所は筆者の地元の岩手県。
県庁所在地の盛岡市で開催された「漫画・アニメ同人誌展示即売会/岩漫(がんまん)61」におきまして、筆者はサークルとして参加。
販売アイテムは、こちらのてぃーだブログ様で投稿させていただいた、ブログ小説がメイン。

「不思議百貨店みいつ堂 半熟妖精のタマゴ」の、大幅書き足し、改訂版です。
A5サイズ変形版、92ページ。活字はちょっと大きめの15Qです。
無事の発行、実売となりました。
お買い上げいただきました皆様、本当にありがとうございます。
ただいま、私の本館ブログ等で、他の作品についてはいろいろと、まんが化であるとか、企画を進めています。

しかし、この「みいつ堂」については、ほとんどが「室内劇」ですから、しばらくはこのまま「小説」として進める予定です。
まんがにすると、その場合、今度は「まんが向け」の話にしていかなくてはないですから。
食事会の場面とか、一カ所に7人の連続会話の場面とか、まんがにするとチョー大変ですよ(笑)。
他の作品につきましては、それなりに「活劇ふうアクション」ですとか、絵的な見せ場もありますので、「みいつ堂」のほうは、特別な目的と理由もありますから、このまま沖縄ブログで、小説として、つづけていきます。
そろそろ「次」も公開していかなくては、と思っておりますが、それは出来次第とさせていただきます。

そして余談ではありますが、筆者の処女小説「風来天使ゆみか」も、同日、販売デビューを果たしました!
このシリーズは長いですよお? 「月の涙の那須」編 その1 としてですが、もちろん、以下続刊です。
「ゆみか」の話は、いずれまた。本館のほうに紹介はあります。
これからちょくちょく、雑記のようなものも書いていきたいと思います。
ブログ投稿分の小説をお読みいただく場合は、それぞれの「カテゴリーをクリック」で、お願いします。
さて、第一歩を記しました。
2010年9月19日(日曜日)、場所は筆者の地元の岩手県。
県庁所在地の盛岡市で開催された「漫画・アニメ同人誌展示即売会/岩漫(がんまん)61」におきまして、筆者はサークルとして参加。
販売アイテムは、こちらのてぃーだブログ様で投稿させていただいた、ブログ小説がメイン。

「不思議百貨店みいつ堂 半熟妖精のタマゴ」の、大幅書き足し、改訂版です。
A5サイズ変形版、92ページ。活字はちょっと大きめの15Qです。
無事の発行、実売となりました。
お買い上げいただきました皆様、本当にありがとうございます。
ただいま、私の本館ブログ等で、他の作品についてはいろいろと、まんが化であるとか、企画を進めています。

しかし、この「みいつ堂」については、ほとんどが「室内劇」ですから、しばらくはこのまま「小説」として進める予定です。
まんがにすると、その場合、今度は「まんが向け」の話にしていかなくてはないですから。
食事会の場面とか、一カ所に7人の連続会話の場面とか、まんがにするとチョー大変ですよ(笑)。
他の作品につきましては、それなりに「活劇ふうアクション」ですとか、絵的な見せ場もありますので、「みいつ堂」のほうは、特別な目的と理由もありますから、このまま沖縄ブログで、小説として、つづけていきます。
そろそろ「次」も公開していかなくては、と思っておりますが、それは出来次第とさせていただきます。

そして余談ではありますが、筆者の処女小説「風来天使ゆみか」も、同日、販売デビューを果たしました!
このシリーズは長いですよお? 「月の涙の那須」編 その1 としてですが、もちろん、以下続刊です。
「ゆみか」の話は、いずれまた。本館のほうに紹介はあります。
2010年07月17日
ミロズシン来王羅編 第一章 3

ミロズシン
来王羅(ラオラ)編
第一章 りき と さやか 3
坂道を駆け下りた改造車の一団は、川を背にしてどこにも逃げようとしない、りき、めがけて、さらにスピードを上げた。
微動だにしない、りきを、十数台の車があっという間に取り囲んだ。
改造したマフラーの音が、グオングオン、鳴り渡っている。
りきの、まん前に陣取った車のドアが開き、後部座席から、まるでプロレスラーのような体格の男が一人現れ、りきの前に進んだ。
「ニイちゃん、悪く思うなや。前金で結構もらっとるからなぁ、それなりの仕事はさせてもらうぜ」
そう言うと、男は、りきの前で、両手の拳の骨をバキバキと鳴らし、デモンストレーションを始めた。
目の前の、ツメ襟の学ランのお兄さんに余裕を見せたつもりなのだろうが、それが逆に命取りになった。
ズサッ。ズシン、と大きな音ともに、一瞬で男は、近藤りき少年の前に、うつ伏せになって倒れていた。
いったい何が起きたのか、りきを取り囲む他の車に待機している者たちにも、わけがわからなかった。
「悪くは思わないよ。あんたも運が悪かったな」
りきは、そう言い残すと、ゆっくりと倒れている男をよけて、取り囲んでいる車と車の脇をスタスタと、土手に向かって歩き出した。
なぜ、何も起きないのか?
車に乗り込んだアルバイトのおニイさんたちで、まとめて近藤の野郎をたたんでしまう手はずだったのだが、全員が「金縛り」にでもあったように、ぴくりとも動けなかった。
「リ、リーダー? なんか様子がヘンだよ? 頼みのプロのおじさん、なんでか倒れてるし。おまけに、誰も車から降りてないよ?」
うろたえる隣の仲間に何も答えず、悠々とこちらに歩いてくる近藤りきを「キッ」とニラみつけると、ピンクのツナギに、特攻のハチマキの女は、近くに停めてあった改造車に乗り込み、すばやくエンジンをかけた。
「作戦変更だよ! アキコ! 『マンリキ』をやるよ! ついてきな!」
ハチマキの女は、ドアを閉める前にそう叫ぶと、一目散に車を走らせ、土手の坂道から空き地に降りた。アキコと呼ばれた仲間の女が同じく改造車で続く。目指すは近藤りき、ただ一人。
男どもはもう、当てにならない。かくなる上はアタイみずから、ヒロシの仇をとる! そう思い詰めたハチマキの女の車は、りきの後ろを猛スピードで走り抜けると、力から数百メートルの所で、ギャギャン! と派手にターンを決めた!
すかさず、もう一台の車が土手の上から踊り出し、やはり、りきをめがけて突っ込んで来た。相棒の車の参戦を合図に、ハチマキの女の車も、反対方向からりきをめがけて走り出した! はさみ撃ちだ!
「こうなったら最後の手だよ! どこまでも追いかけて、きっちりツブしてあげるからねェ! さぁお逃げ! お逃げったらぁぁ!」
叫び狂う、ハチマキの女。しかし、りきはその場をいっこうに動かない。
「なによ、コイツ! 逃げなさいよ! なんで逃げないのォー! でないと、このまま、このまま!」
りきをめがけて、一直線に、別々の方向から車が向かっている。
ますますスピードを上げ、接近する二台の車。
しかしそれでも、りきは微動だにしない。
いよいよ、十数メートル、数メートル、と車が近づく!
危ない! このままりきが逃げずに、二台の車が直進を続けると、ギリギリのところで、りきが車をかわしたとしても正面衝突になる!
「ムチウチ上等ォ! 病院へ行けェ!」
ハチマキの女は、ちゅうちょなくアクセル全開だ!
アキコと呼ばれた相棒も続く!
どこまでもりきが逃げなければ、相打ち覚悟の、二台の車の「万力」責めである。
もはや、けっして、正気ではない。
グググォォォン! ガルガルガル!
突然、二台の車がぴたりと止まった!
しかし、ブレーキは踏まれていない! タイヤは土煙をあげて回転し続けている!
見ると、二台とも、近藤りきの体の五十センチほど手前で、少し宙に浮くようにして止まっている。
りきは、というと、両方の手のひらをそれぞれの方向の車に向けて、目を閉じて、いや、閉じるか閉じないか、うっすらと目をあけながら、ゆったりと立っていた。
「こ、このヤロ…。アンタは、なんでピンピンしてんのさ…。
ヒ…ヒロ…シ、ゴメン…ね:」
車の中で、ハチマキの女は気を失った。がくりと首が落ち、両手がハンドルから、だらりとずり落ちると、誰も触っていないのに、車のキーがカクンと回り、エンジンが止まった。りきの反対側の車も、同じようにして止まった。
次の瞬間、土手の上に待機していたレディースのメンバーが、バタバタッと、地面に崩れ落ちた。
「…お前らに本気で相手をしてもらったこと、楽しかったぜ。ありがとう。忘れないよ」
そう言うと、りきは、何事もなかったかのように、その場を後にして、土手のほうに向かって歩き出した。
『ーもう、気は済んだな。時間はあまり無い。急ぐぞ』
凛とした、女の声が、近藤りきの頭の中に直接響いた。
りきが土手の上の道に登ると、倒れているレディースたちの後ろに、黒いサングラスをかけた、たっぷりとした栗色の髪の、まるでモデルのような女性が立っていた。
麗人である。
日本人のようでも、外国人のようでもない。
白のスラックスに、白のシャツ。薄い、ふじ色のジャケットの彼女は、目の前の、夏のツメ襟学ラン少年に向かって、今度は直接口を開いた。
「荷物は?」
「駅のコインロッカーです。あなたのことは姉から聞きました。お世話になります、よろしくお願いします」
理想的不良少年を目指す、近藤りきだったが、年上の、二十七、八才位ぐらいに見える女性に、殊勝な態度である。
相手が特段の美人だから、というわけでは、決してない。
二人は駅のある方向に向かって、土手を町中へと降り、歩き出した。
2010年07月01日
ミロズシン来王羅編 第一章 2

ミロズシン
来王羅(ラオラ)編
第一章 りき と さやか 2
「手応えが軽いな…。お前ら、何年『不良』をやってたんだよ…」
そう言い捨てると、少年は、夏だというのにも関わらず、赤いシャツの上に黒いツメ襟の学生服をはおった。もちろんボタンはかけていない。
少年のまわりには、特に外傷も見当たらないが、身動きひとつ出来ずに、ごろごろと地面の上に寝転がっている、数名の若者たちがいる。
ここは川沿いに建設中の陸橋の高架下で、あまり人目につかずに、こういった「男と男の荒っぽいやりとり」をするには都合の良い場所でもある。
「コ、コラ…。近藤ォ…。てめェ、待ちやが…れ…」
寝転がっている、若者たちのリーダー格らしき坊主頭にソリコミの男が、やっとのことで声をしぼった。
「あんたたちが時間を守って、ここに来てくれたことには礼を言うよ。けど、どうしてもオレと勝負したいっつったのは、あんたたちだし、付き合ったのはオレのほうなんだぜ?」
倒れている男に背中を向けながら、横顔のまま、振り返りざまにそっけなく答えると、少年はくるりと前を向き、後ろ姿でこう続けた。
「これに懲りたら、もうオレのことは忘れてさ、そろそろ仕事見つけたり、将来のことを考えなよ。オレもいろいろとワケありだしね」
この台詞を聞いてソリコミの男は、テメェに言われなくてもなぁ、と、こめかみをピクピクさせると、次の瞬間、ニヤリと口の端をつりあげ、不敵に笑い出した。
「へ。へへ。…近藤よォ…。お前も今日で終わりだぜ…。手はずは出来て…んだ…」
そう言うが最後、男はガクッと力尽きた。少年は何事もなかったかのように、その場を後にして歩き出した。
工事中の橋が完成するのはまだ先のことらしい。橋が出来たら、さっきの場所も使えなくなるな、と思いながら、少年は川沿いの土手の、遊歩道を横切り、コンクリートの階段を使って川辺に下りた。流れる川を右手に見ながら、川沿いに歩く。
「さやかとの約束、守れずじまいだったな…。もうこの時間じゃあ、完璧に遅刻か…」
幼なじみの彼女のことを心配しながら、川沿いに広がっている空き地にさしかかろうとしたその時!
『コンドー、リキぃー! よくもあたしの可愛いヒロシを、さんざんボコボコにしやがったねェー!』
まるで選挙運動の時のような大音量の声が、どこからか響いてきた。
声のするほうを見ると、ピンクのツナギに、「特攻」と書かれたハチマキをキメた、ロングヘアのいなせなお姉さんが一人、拡声器をかまえて、いつの間にか空き地の端の土手の上に立っていた。
『まさかアンタ、ヒロシの○○タマァ、両方ともツブしたりまでしてないだろねェ! 将来子供作れなくなってたら、アンタを地獄の底まで追い詰めてやるかんなァ!』
ちょっとお下品な演説が終わると、ハチマキの女性のバックに、これまた気合いの入ったお姉さんたちがズラリと二十人ほど現れた。
そのうちの一人が、リーダーの彼女に耳打ちをする。
「リーダー、あいつは何かヘンな『術』みたいなのを使うンだって。あたいの男もあの野郎にやられたんだ。なんでも、手を触れないで相手をぶっ飛ばすンだって言…」
最後まで聞かずにリーダーが号令をかけた!
『いけェ!』
すると、土手から川沿いの空き地へ入る坂道に、ブオン、グオオォン、と数台の改造車がなだれ込んで来た! 川を背にした少年めがけて、改造車はスピードを上げて突進してくる!
やれやれ、まだ続くのかよ、と半分呆れている少年の名前は「近藤りき」。十八歳の現役の高校生である。
月影さやかという、ちょっと困った彼女がいる。
彼のモットーは「幅広く自分を磨く」であり、「理想的不良少年」の確立を目指し、日々の努力を惜しまぬ、ある意味真面目な気質の男でもある。
2010年06月29日
ミロズシン来王羅編 第一章 1

ミロズシン
来王羅(ラオラ)編
第一章 りき と さやか 1
午前八時三十五分。朝の「ホームルーム」開始の時間が迫る。
ここ、私立岩沖高校、文系クラスの3ー2の教室では、ある一人の女生徒を除いて、いつもと変わらない朝の時間が、ゆるやかに流れていた。
一クラス三十数名の生徒の中には、熱心にテキストや問題集をチェックする者、一時間目の授業の予習をする者、昨日のプロレスの試合、アイドル生出演の歌番組の話題にさんざめく者、と様々だ。
しかし、ただ一人、月影さやかだけは、机に両ひじを立てて手を組み合わせながら、口をふさいで、じっと目は一点を見つめている。
ムズカしい顔、というのはこういう顔だろうが、十七歳の色白で端正な顔立ちの娘さんの、ものうげに思い詰めた様子というのは、なかなかオモムキがある。
(馬鹿! 馬鹿! 馬鹿! あの馬鹿りき! あと五分だっていうのにッ…)
ちら、と教室の黒板の上にある時計を見ては、ピリリと眉をしかめ、ひとつ大きなため息のさやか。
前期末考査を終えた開放感もつかの間。
いよいよ大学受験準備の天王山の「夏期休校」を迎える七月中旬。
生徒たちも、夏期講習の準備に忙しい者、今まで部活動三昧でこの夏から受験勉強に本腰を入れる者、高校生活最後の「夏」と照準をそちらにしぼる者と様々だ。
そんな生徒たちの頭上で、いつものように八時四十分のチャイムが鳴った。
さやかの前の席に座っている女生徒が、突然、くるりと後ろを振り向く。
目の前には、あきらかにムッとしている月影さやかの顔がある。
そんなさやかの表情を楽しみにしていたかのように、ニヤリと口を閉じながらの薄ら笑いを浮かべる少女。
「ねえ、さやか? 今日も、りき君、遅刻よね〜」
「な、なによ? それがどうしたのよ。もう知らないわよ、あんなヤツ!」
ほほをふくらませてすねてみせる、さやか。
「なんでもこの学校はじまって以来だってね、りき君の連続遅刻、無断欠席、午後から登校とか…。そりゃうまく計算して、退学になる一歩手前でやめてるけどお」
目を細めて、ますますニヤニヤする少女。
さやかはムムッ、としながら耳が痛い。
「県下一の名門校に幼なじみのご近所同士、あんたとりき君がいっしょに入学出来て、今も同じクラスなのはいいけどさあ…」
キョトンとして目がぱっちり、何を今さら、とあきれるさやか。
「あんたの『愛妻』ぶりも、あの不良学生を立ち直らせるとこまでいかないのかしらああン?」
ニカッと大口を三角にして、言ってやった、言ってやったの勝利の顔の少女A。
「うるっさいわね! りきにはりきの自由にさせてあげるのよ!」
ガタッと席から立ち上がって、右手をグーで振りかざすさやか。
「あの人にはあの人の考えがあるのっ! それに、りきは! あ…」
いきりたっている、さやかの、目線の先には、少女Aの後ずさる歓喜の表情とともに、いつの間にか教壇に立っている担任の先生。
「三年二組、出席番号二十四番、月影さやか!」
声にならない声で「ハヒッ」と生返事をしながら、スチャッとすばやく着席のさやか。
少女Aちゃん、するりと前を向いて知らん顔。
「さやか君は、成績も優秀で元気もあって、とてもよろしい。だが、担任としてではなく、一人の男性として、ひとつ忠告しておく」
なかばヤレヤレとため息まじりに、半分はげ上がった頭の、残っている両わきの髪の毛を手でさする五十を過ぎたベテランの男性教師。
「キミは将来すばらしいヨメさんになれそうだが…」
さやかの表情がキュピーンと凍りつく。
「今から未来のダンナの、面目(メンツ)を立てる練習までしなくてよろしい」
どっ、と教室が笑いに包まれるが、これは悪意ではない。
クラスメートたちの前で、こうして担任の教師も冗談を言えるほどの、公認のおつきあいなのだ。
また、言われたさやかにしても、うれし恥ずかし、といったところ。
自分がジョークのネタにされても、それを受け止めて、軽く流せることの出来る度量もあったし、こうしたことはもう「慣れっこ」でもある。交際相手の幼なじみ、近藤りきとは、赤い糸でつながっているんだから、という自信もあった。
笑い声に包まれながら、真っ赤な顔でしばらくうつむくさやか。
(もう、りきったら、ホントに何やってんのかしら…。
大事な用事を済ませたら、今日は遅刻しないで学校に行くって言ってたのに…。
まあ、何の用事かは、だいたいわかってるけど…)
2010年06月27日
ミロズシン来王羅編 プロローグ

ミロズシン
来王羅(ラオラ)編
プロローグ
走る。走る。二人の男が、走る。
山から山へ、木々から木々へ、およそ常人のものとは思えない速さと正確な足取りは、生半可な訓練では得られぬものだろう。
修行を積んだ神仙の人の、速駆けの術か。
ザッ! ザザッ! と木の葉や木の枝に体が触れるところを見ると、どうやら人間らしいが、その二人が同時に林をザン! と抜けた。
立ち止まった二人の目の前には、とある山の山腹から見下ろす景色、人口二万人ほどが暮らしているらしい町の、その一角の様子が広がる。
「ここだ。この町だ」
「間違いねえよな」
「うむ。行くぞ」
そう言い終えると、背中に物干竿のような「槍」を背負った、金髪、長身の男が再び走り出す。
外国人だが、日本語は流暢だ。
かつてローマが栄えていた時代に、身にまとわれていたような白衣のまま、山を駆け下りてゆく、一人目の男。吹きつける風に、短く切りそろえた金髪が、金のヘッドバンドといっしょにまぶしく揺れる。
男というより青年と見えた。横顔が凛々しい、碧い眼の美青年でもある。
続いて今度は和服の男、紺色の、昔ながらの作業着、「作務衣」を着た男が続く。小柄で少々太めの体型の、日本人男性だ。
黒髪に丸顔で、つぶらな瞳。額が広く見えるのは髪の薄さからではない。コロコロと転がっていきそうだが、山を駆け下りる速さは、金髪長身の青年にひけをとらない。
こちらは一見、中年の男性かと見てとれたが、よく見るとまだ二十歳前後の若々しい青年である。
やがて二人の青年は、山のふもとに広がる森の中へと消えていった。
2010年06月25日
不思議百貨店みいつ堂 半熟妖精のタマゴ その12〈了〉

半熟妖精のタマゴ その12
前回まで
不思議アイテム販売店のみいつ堂で、アルバイトとして働く主人公、南晶(なんしょう)まこと(20才・男性)。突然苦しくなって、体の自由がきかなくなり、その場に倒れてしまうという持病をもっている。
まことの持病は医者もお手上げの原因不明の病気なのだが、ただひとり、みいつ堂の「お役目の女」である地之神未愛(ちのかみ みあい)のもつ不思議な力だけが、彼を治療し、命を生かすことができる。
しかしその未愛にはみいつ堂での「お役目の女」としての、「巫女の中の巫女」のような仕事があり、まことの治療に専念しているわけにもいかない。
そこで一計を案じた、みいつ堂の最高責任者、堂主の「おやじさん」は、養女である娘の一人、地之神未智(みち)を通して、ある方法をさずける。
まこと と未愛は、「半熟妖精のタマゴ」を誕生させた。
12 ふたりの未来
「おう。エーミ。どうした? 倉庫のほうは、もういいのか?」
不思議アイテム販売店みいつ堂の、実質上の最高責任者であり、経営者でもある、堂主、地之神 玄蔵が、従業員専用のお手洗いから出て来ると、廊下の壁にもたれるようにして、頭に三角巾、カーキ色の作業着姿の、渋川恵美が、腕組みをしながら、そこにいた。
「……ゲンちゃん……。その名前で、あたしをお呼びなさんなって……。今は鬼の清掃員、渋川さん、なんだからさ……。」
渋川恵美が、目を閉じたまま、どこかうれしそうに顔をしかめている。
「ははは。すまん。すまん。ところで、未愛とまことくんの件じゃろ?」
仕事着に着替えている、みいつ堂の堂主、地之神玄蔵は、しらが頭の上の、編み目のようなかぶりものこそ、そのままだが、衣服は、こげ茶色の甚平スタイルであり、ちゃんちゃんこ、のようなものを、はおってもいる。まるで時代劇にでも出て来る、庄屋様のような姿にもみえた。
「…………半熟妖精………、仕様を変えたね?」
渋川恵美の両目が、すばやく開いたかと思うと、刺すような鋭さで、地之神玄蔵の目を、射るほどにみつめる。
「はは。ワシのやることは、だいたいはお見通しのようだな。」
そう、玄蔵は言いおくと、堂主室のある方向へ向かって、廊下を歩き出した。渋川恵美も、それに続く。
「それしかないと、あたしも思ってた……。」
「………未愛の、心のうち、は、まことくんには伝わらん。あの妖精の力を介しても、2人の気持ちは、通じ合わん。
通常の商品とは、本末転倒の仕様変更だが、未愛の『治すちから』のみ、まことくんに伝わるように、特別の調整済みじゃ。
それでよかろう?」
地之神 玄蔵は、そう言うと立ち止まって、渋川恵美に、にっこりと微笑んだ。
「あたしも……、もう誰も監獄送りには、させたくないんだよ………。
未愛は、あの年で『お役目』を引き受けてくれた。死なすわけにはいかないさね………。」
「さ、今日も始まるぞい? 仕事じゃ、仕事じゃ!
まことくんのことは、任せたぞ。」
「あいよ。」
そう、言葉をかわすと、みいつ堂堂主、玄蔵は、上の階の堂主室へ、渋川さんは、1階の奥にある、みいつ堂のアイテム管理倉庫へと、それぞれ、向かった。
「なあによう、まったくさあ。この、フリーズドライフラワー、ぜんっぜん役に立ちゃああ、しないじゃないのさあ。
いくら新商品だっていってもお、これじゃあ、お客様にお渡しなんか、できゃしないじゃなあい。
カゲラセンターの、担当者、クビよ、クビ! 誰だっけ、あの仲買の新人? ゴン之介とかいってたかしらあ?」
みいつ堂の事務所で、地之神未緒が、なにやらいきりたっている。
「ゴン之介じゃねえよ、ゴン之丞(じょう)だよ。ヤツも、あっちの世界の住人だ。こっちに来るのは、まだ慣れちゃいない。
新商品の、しかも試作品なんだからよ、そのへんは未緒ちゃんも、大目に見てやんなって。」
みいつ堂用心棒の、青木が、2つ目のスポーツ新聞の、末尾のほうの記事に目を通しながら、やんわりと、たしなめる。
「この、藍色のフリーズドライフラワーを使うとさあ、体全体の『お肌』がツヤッツヤになってえ、バストもヒップも、はりはり、はりーーん、ボンキュッボーーンで、あなたのミリョクも三割増しに、とゆーコトだったのにさあ……。
ったく、ゴン之助の野郎、こんどあったら、ただじゃあおかないからあ。もおう。」
両方のほっぺを、思いっきりぷいっとふくらませては、まゆを三角にして、怒りながら、ドカッと空いている事務所のイスに、ふてくされるように座る、地之神未緒。
半熟どころか、まだまだ、子供のような、おかしな20代成人女性。
「たしかそいつ、風呂の浴槽に入れて、使うやつだろ? そういうモンに頼らなくてもよ、未緒ちゃんは充分、魅力的だぜ。」
スポーツ新聞の紙面をめくりながら、なにくわぬ表情で、青木が、未緒のごきげんをとる。接客に支障をきたしては、店の売り上げにもひびくというものだ。
「あら? アオさん? ウフ、うれしいこと言ってくれるじゃあないのさ。」
そう言うと未緒は、自信を取り戻したかのように、首をちょっとかしげて、両目をすこし閉じ加減にすると、体をくねらせるようにして、右手で長い髪をかきあげてみせた。
「ダイマツ屋のオヤジには、慎重にな? なにか、あったら、すぐに俺を呼ぶんだぜ?」
「ふうう……ん、そういうセリフはさあ、ちゃんとした記事を読みながら、言ってほしいものよねえ……。
さてと、そんじゃあ、今日も一日、ラストまで、はりきりますかっ!」
地之神未緒の表情が、きりっと引き締まり、独特なオーラのようなものが、彼女をふるいたたせていた。
さきほどまでの、ピンク色ふうのフェロモンも、少し、なりをひそめ、職業人の、顔をみせている、地之神未緒。
「そうだぜ、未緒ちゃん。今日も、明日も、世のため、ひとのため、みいつ堂は、お客様に『必要なもの』を、お届けし続けなくっちゃあなあ。」
そう言うと、青木は、新聞から目を離し、窓の外に見えもしない、晴れた青空を、じっと見つめていた。
〈了〉
2010年06月25日
不思議百貨店みいつ堂 半熟妖精のタマゴ その11
半熟妖精のタマゴ その11
前回まで
不思議アイテム販売店のみいつ堂で、アルバイトとして働く主人公、南晶(なんしょう)まこと(20才・男性)。突然苦しくなって、体の自由がきかなくなり、その場に倒れてしまうという持病をもっている。
まことの持病は医者もお手上げの原因不明の病気なのだが、ただひとり、みいつ堂の「お役目の女」である地之神未愛(ちのかみ みあい)のもつ不思議な力だけが、彼を治療し、命を生かすことができる。
しかしその未愛にはみいつ堂での「お役目の女」としての、「巫女の中の巫女」のような仕事があり、まことの治療に専念しているわけにもいかない。
そこで一計を案じた、みいつ堂の最高責任者、堂主の「おやじさん」は、養女である娘の一人、地之神未智(みち)を通して、ある方法をさずける。
まこと と未愛は、未智の仲介で、いよいよ「半熟妖精のタマゴ」を孵化させた。
11 半熟妖精の誕生(後編)
「ミュー! ミュー! ミュー!」
みいつ堂の客室、ビジネスホテルの一室のような部屋の、その天井近くを、くるくる、くるくると、飛び回っている大きな毛糸玉のようなそれは、さきほどタマゴからかえったばかりの半熟妖精だ。
ミュー、としか言葉はまだ話せないが、大きさは、ソフトボールの球ほどで、それほどではない。
つぶらなだ円の瞳に、ふさふさした白い体毛の、まん丸体型。手足はまだ、生えていないが、触覚のような一本の「毛」のようなものが、ぴーんと、そそり立っている。
あっけにとられて天井を見上げて立ちあがっている、南晶まこと。
一方、地之神未愛は、いっしょにイスから立ち上がってはいたが、余裕の表情だ。
まだいそがしく、ぐるぐると部屋中を「旋回」している半熟妖精に、ちょっとだけ「念」を送ると、妖精はきりもみ急降下、ストン、と、未愛の頭の上に、ウルトラCの着地を見せた。
まん丸、白の、毛糸玉で出来たソフトボールのような妖精の、つぶらな瞳に映っているのは、笑顔の南晶まことである。
「さ、まことさん、あなたの運命をにぎるパートナーが誕生しましたよ? あたしたち2人が、この子を誕生させたの! うふふ。ちょっと、不思議なかんじですよね?
あたしがママ、まことさんがパパってところかしら? きゃあ! やだあ! ごめんなさあい、今のは、なし、 なしにしておいてくださいね? やだあ、もおう、はあずかしいい!」
それしきのことで、顔を赤くして、両手でほほをおさえている地之神未愛は、やはり、可愛い。
まことは、そんな未愛をみつめることの出来るよろこびに、いっ時、我を忘れていた。
「しかし、本当にいたんだねえ…。妖精って…。」
「ミュー! ミュー!」
「あら? まことさんのこと、気に入ったみたいよ? 彼女。」
「か、かのじょお? 女の子なんだあ、この妖精。」
「さあ、それじゃあ、おきにいりのまことさんに、この子の名前を決めてもらわなくっちゃね!
ね! まこちんさん?」
そう言うと、未愛は、パチっと、片目をつぶって、義理の姉の未緒を真似るように体をちょっとだけ揺らして、まことにウィンクをしてみせた。
今の未愛は私服姿で、白いトレーナーふうの長袖シャツに、こげ茶色のスラックスだ。長いくり色の髪の毛を、後ろで一本三つ編みに束ねているそれが、うれしそうにはずんでいた。
肩幅と、肩のラインこそ、か細いのだが、なかなかどうして、腰から下は、スラックスの上からでも見て取れたが、なかなかの見事な曲線の美脚である。少年のような胸は、ご愛嬌だ。
未愛の頭の上にいる半熟妖精も、未愛の楽しそうな気持ちを感じ取って、ピョンピョンと、ミューミュー鳴きながら、うれしそうにとびはねていた。
もちろんまことは、とびはねずに、未愛と妖精を見つめていたが、今にもおどり出しそうな、ココロウキウキ状態だった。
ずうっとこのひとと、いっしょに暮らせたらなあ、と、いっしょにスーパーで夕飯の買い物をする姿などを思い浮かべては、まことは1人、悦に入っていた。
「名前は、ミア。ミアちゃん! これでいきたいけど、未愛さん、どうかなあ!」
まことの両目が、キラキラと輝いている。
「はあい! ミアちゃんでちゅねえ?」
そう言うと未愛は、頭の上から半熟妖精を両手でやさしくかかえて降ろし、くるりと自分の顔のほうに瞳を向けさせると、こう続けた。
「よろしくね! ミアちゃん! 半熟妖精のミアちゃんたんじょう、ですねっ!」
さらに未愛は、妖精ミアちゃんを、まことのほうに向けて、両手でかかえながら、腕をのばして差し出した。そして未愛は、ぷるぷるっとふるえたあと、目を閉じて、なんらかの「集中」をし始めた。
「ンっ!」と、未愛が、全身全霊を込めて、気合いのようなものを、妖精に、かけた。
まことは一瞬、地震でも起きたかのような衝撃を受けたのだが、次の瞬間、半熟妖精のミアちゃんが、勢いよくピョーンと跳ねたかと思うと、まことの左肩に、ストンと落ち着いた。
おどろいたまことは、穴の空く程見つめていた未愛から、はじめて目線を妖精に移すと、妖精は、小さな声でミュウ、と言いながら、すーっとまことの肩の上で、だんだんに透明になって、空気に消えて行った。
「はい、これで手続きはおしまいです。あとは、ミアちゃんが、まことさんの守護霊のようにして、あたしが送るちからを、まことさんに届けてくれますからね。
あっ、ただ、距離の制限はありますから、まことさん、あんまりあたしのそばから離れすぎないでいてくださいね? うふふふ。
あたしから、はなれすぎたらあ、また、どっしいいいん、ですからねえ? うふふ。」
笑顔いっぱいの未愛には、なんら、ひとっかけらも、邪気が無い。
まこともまことで、これでまだまだ、未愛の近くにいることが出来る、と、束縛感など、みじんも感じていなかった。
俺には、このひと、ただひとり。未愛の天然自然な笑顔を、ただ、ただ、喜びと至福の思いで見つめている、まことだった。
なんだか、この2人、もしや、あるいは、浅からぬ因縁が、有りや? 無しや?
まことは、もう、未愛から、離れることは出来ないのだが、彼は今、こころから、それを望んでいた。
ドアの、ノックの音が4回鳴ると、地之神未智の声が聞こえて来た。
「そろそろ、いいかしら? 未愛? まことくん?」
2010年06月25日
不思議百貨店みいつ堂 半熟妖精のタマゴ その10
半熟妖精のタマゴ その10
前回まで
不思議アイテム販売店のみいつ堂で、アルバイトとして働く主人公、南晶(なんしょう)まこと(20才・男性)。突然苦しくなって、体の自由がきかなくなり、その場に倒れてしまうという持病をもっている。
まことの持病は医者もお手上げの原因不明の病気なのだが、ただひとり、みいつ堂の「お役目の女」である地之神未愛(ちのかみ みあい)のもつ不思議な力だけが、彼を治療し、命を生かすことができる。
しかしその未愛にはみいつ堂での「お役目の女」としての、「巫女の中の巫女」のような仕事があり、まことの治療に専念しているわけにもいかない。
そこで一計を案じた、みいつ堂の最高責任者、堂主の「おやじさん」は、養女である娘の一人、地之神未智(みち)を通して、ある方法をさずける。
まこと と未愛は、未智の仲介で、いよいよ「半熟妖精のタマゴ」を孵化させるのだが……。
10 半熟妖精の誕生(中編)
まるでビジネスホテルの一室のような、みいつ堂の客室の中に、まことと未愛の2人は、いる。
「3分すぎたかな。」
未愛が、小さなテーブルの上のあるものを、まこととの間をさえぎらないようにと、わきのほうに置いていた砂時計を確認する。
さらさらさら、と、最後の砂たちが、いきおいよく、ストンと落ちきった。
「そうだね、3分すぎたね。」
「半熟妖精のタマゴ」を両腕で胸の上に抱きしめている、まことの声が、はずんでいる。
テーブルをはさんで、まことと未愛は、向き合ってイスに座っていた。
最初の不安はどこへやら、砂時計に許された未愛との時間の中で、彼女との不思議な絆を確かめることの出来た、まことの心は、おどっていた。あとにも先にも、忘れることの出来ない、運命の数分間、であった。
今はまだ、その時ではない。この娘さんは、男女の交際すら、その立場上、「お役目の女」の仕事上、決して、絶対に、許されないのだ。男と女として、どうこうなろうだとか、考え悩む時ではないし、それは「もっての他」のことなのだ。
しかしまた、そうまことは、自分に言い聞かせる一方で、ゆっくり、しっかり、もしこの目の前の16才の女性と、なにかの「縁」が、さらに深くあるのならば、たとえ2人の間に何があろうと、なるようになるはずではないか? とも、思っていた。
むしろそれが自然なことであればあるほど、「悪いこと」では、ないはずではないか? そんなふうに、自分に都合のよい考えをめぐらせるのも、恋の魔力といえば、そうなのかもしれない。
恋する相手の娘は、「お役目の女」。決して愛し合うことは出来ぬ、抱きしめることさえかなわぬ、2人きりでも、何人であっても、デートすら許されない、禁断の恋路。
されどなお、けれどもしかし、「許される範囲」というものが、きっと、あるはずだ。
「慈悲」のようなことが、きっと、あるはずだ。
俺は、未愛さんのことを、思い続けたとしても、絶対に不幸にはしない、したくない。そうなることだけは、どんなことがあっても、回避してみせる。
なにより今の俺は、このひとの力なしには、いつ果てるとも知らぬ体であるのだ。まったくその通りの意味で、未愛さんがいてくれるから、俺は生きていける。
あれほど苦しめられ続けて来た、意識をしょっちゅう無くするような、体が動かなくなり、その場に倒れ続けるような、持病の発作からも、やがては開放されるのかもしれない。
どんな医者でも、治すことの出来ない、自分の体の症状を、これからタマゴからかえる「半熟妖精」の力をさらに借りて、治していくことが出来るのだ。
まことは、1人、自分の気持ちの世界の中だけで、盛り上がっていた。
「あっ! ほら、まことさん、タマゴが動いてる!」
「ほ、本当だ! じ、じゃあ、未愛さん、い、いいかな?」
「いっけない! あぶなかったわ、ついうっかりしてたあ! あたし、そそっかしいから。」
そう未愛が言うか言わぬかのすばやさで、未愛がとっさに動いた。
さっ、とイスから腰をあげて、まことに近づき、両手をさしだす未愛。
その動作に合わせるように、まことは、タマゴを両手で抱えながらイスから中腰のようなかっこうで立ち上がる。
まことが未愛のほうにさしだした、カタカタ動き出しているダチョウのタマゴの大きさほどの、「半熟妖精のタマゴ」。
それを持っている、まことの右手と左手に、未愛の両手が、それぞれしっかりと、そえられた。
一瞬、目と、目で、見つめ合う2人。
未愛の白いほほ、が、ボンッと赤くなった。
2人は、イスからすでに立ち上がっていて、小さなテーブルを間に、タマゴを持ちながら、手と手で、つながっていた。
ぎゅっ、と、未愛は、自分の右手でまことの左手を、自分の左手でまことの右手を、強く、かたく、にぎりしめている。
さすがに、まことの顔を間近には直接見れない未愛の、両方の耳たぶが、かなり真っ赤になっている。
そんな未愛の様子を見るにつけ、まことの未愛恋しの気持ちは、どんどんふくらんでいく。成長してゆく。
半熟妖精のタマゴを間にしながら、手と手を結び合い、にぎりあっている、まことと未愛。未愛とまこと。
この2人に、どのような厳しい未来が待ち構えているのかは、まだ、誰も、知らない。
まことはまことで、未愛は未愛で、それぞれが、それぞれの信ずるもののために、命をかけていくことになる。
2人が、気持ちを高め合って行く、そのピークに達した瞬間!
パーン! とタマゴのからが、くだけちると、からの破片はそのまま、キラキラと輝きながら、すうっと消えていった。
あっけにとられる、まことの前に、余裕で微笑んでいる、大好きな、地之神未愛の、かけがえのない笑顔があった。
2人の、手と手は、まだ、しっかりと、にぎられていた。
タマゴから、一体の、「半熟妖精」が、誕生した。
2010年06月25日
不思議百貨店みいつ堂 半熟妖精のタマゴ その9
半熟妖精のタマゴ その9
前回まで
不思議アイテム販売店のみいつ堂で、アルバイトとして働く主人公、南晶(なんしょう)まこと(20才・男性)。突然苦しくなって、体の自由がきかなくなり、その場に倒れてしまうという持病をもっている。
まことの持病は医者もお手上げの原因不明の病気なのだが、ただひとり、みいつ堂の「お役目の女」である地之神未愛(ちのかみ みあい)のもつ不思議な力だけが、彼を治療し、命を生かすことができる。
しかしその未愛にはみいつ堂での「お役目の女」としての、「巫女の中の巫女」のような仕事があり、まことの治療に専念しているわけにもいかない。
そこで一計を案じた、みいつ堂の最高責任者、堂主の「おやじさん」は、養女である娘の一人、地之神未智(みち)を通して、ある方法をさずける。
昼食をとり終えた、面々は、それぞれの持ち場に。
まこと と未愛は、未智の仲介で、いよいよ「半熟妖精のタマゴ」を孵化させる。
9 半熟妖精の誕生(前編)
「それじゃあ…、あとはわかってるわね? 3分たったら、未愛も、まことくんといっしょに、タマゴに手をそえてね?
そうして、妖精が産まれたら、あとは……。いいわね?」
地之神未智は、そう言いながら、険しい目で未愛の両目をみすえている。白いチャイナドレスふうの、胸にワンポイントのししゅう入りの、ロングスカートにスリットが入っているその服は、不思議アイテム販売店、みいつ堂の女性用店長服でもある。
ここは、そのみいつ堂の「お客様」が、待合室・休憩室として通される客室のひとつである。ランクはそれぞれにあるが、この部屋は、スタンダードタイプの客室だ。ビジネスホテルの一室のように、シンプルな部屋でもある。
部屋の中央には、ひざぐらいの高さの小さめのテーブルがあるが、その上には、3分間用の砂時計が置かれている。
そのちいさなテーブルをはさんで、南晶まこと と 私服姿の地之神未愛がむかいあってイスに座っていた。
地之神未智店長は、最後に、まことのほうを向いて、彼にやさしく微笑むと、部屋のドアのほうへと歩き、黒いふろしき包みを抱えながら、静かに客室のドアをしめて、部屋を出る。
客室の中では、まことと、未愛の、ふたりきりである。
未智が部屋を出ていったあと、未愛は、砂時計をひっくりかえし、時間をはかり始めた。
砂時計の砂が、サアサアと流れおちる音が、聞こえてきそうな、静寂のなか、まことは、未愛の動きと呼吸を合わせて、ひざの上にのせていたダチョウのタマゴほどの大きさのそれを抱え上げた。自分の心臓の位置の胸の部分と密着させて、しっかりと両腕で抱きしめている。
白いトレーナーのような長袖のシャツに、こげ茶色のスラックス、くり色の長い髪の毛を一本三つ編みに後ろに束ねている16才の地之神未愛は、砂時計のしたくを終えると、無表情のまま、イスに浅く腰かけた。
未愛の体型は、肩幅がややせまく、ウエストは、意外なくらい細いのだが、シャツにかくれてめだたない。
腰から足にかけての曲線は、たっぷりとした肉感的な体型が、スラックスからでもみてとれるのだが、バストはそれに反して、けっして豊かとはいえない。もうしわけないくらいに、少年のような胸をしていた。
まことは、白いワイシャツに、学生服のような黒のスラックスで、やや、やせ形で、スラッとしたモデルのような体型でもある。
髪の毛はやや長髪ぎみだし、肌の感じも、どこか青白かった。
美男子といえば、その部類に入るのかもしれない。そんな彼は、じっ、と、両腕で抱えているタマゴの表面をみつめている。
2人の間に、沈黙の時間が流れる。
長い、長いような、けれども、一瞬で終わってしまうかのような。
そして、いつまでもつづいていてほしいような時間が、2人の間に流れている。
なぜか、気まずい…。まことは、素直にそう感じていた…。
あれほど、夢にまでみた、待ちに待ったこの瞬間であるはずなのに、なぜ、どうして、不安が先にたつのだろう…。
目の前には、毎日のように彼に「男と女」の因果を含めてくれる渋川さんもいないのだし、もちろん、至福の「ふたりきり」のはずなのだ。
彼、南晶まことは、ただ、ただ、ダチョウのタマゴほどの大きさの、半熟妖精のタマゴを抱きしめながら、その白に近いアイボリーの殻の表面を、見つめているしか、できなかった。
いっぽう、未愛のほうは、というと、何をするでもなく、無表情のままである。かたくもなく、やわらかくもなく、自然体のまま、静かに、砂時計の、さらさらとこぼれてゆく様子を、みつめている。
しかし、かなりの時間が過ぎたかのように、まことには思えていたが、実際は十数秒しか経過していなかった。
意を決して、まことが、タマゴをみつめながら、重い口をひらいた…。
「……妖精が、このタマゴから産まれるんだよね?」
そう言うと、まことは、すっ、と自然に、大好きな、地之神未愛をみつめた。髪の毛、両目、可愛い鼻、口、ほほ、りんかく。そして最後には、返してくれるであろう未愛の答えを期待しつつ、彼女の眼を、見つめている。
恋いこがれている、あこがれの女性が、今、テーブルをはさんで、自分のすぐ目の前にいるのだ。
「そうですよ。」
未愛から、その時、返ってきた言葉は、その一言だけだった。
2010年06月25日
不思議百貨店みいつ堂 半熟妖精のタマゴ その8
半熟妖精のタマゴ その8
前回まで
不思議アイテム販売店のみいつ堂で、アルバイトとして働く主人公、南晶まこと(20才・男性)。倉庫の整理中に持病の発作で倒れるも、みいつ堂の16才の「お役目の女」、地之神未愛(ちのかみ みあい)の不思議な力で助かる。
まことの持病は医者もお手上げの原因不明の病気。未愛のもつ不思議な力だけが、彼を生かすことができる。しかしその未愛にはみいつ堂での「お役目の女」としての、「巫女の中の巫女」のような仕事があり、まことの治療に専念はできない。
みいつ堂の最高責任者、堂主の「おやじさん」は、養女である娘の一人、地之神未智を通して、ある方法をさずけるが、事態は意外な方向に。お昼をまわったみいつ堂は、従業員たちのお食事の時間。
8 倉庫昼食会 食事編
「はい! ちゃんとそこ、間を離して! それぐらいでいいだろ。それから、お龍は、まことくんのとなりだよ!
未智はどうしたんだい? 電話中? だったら、みひろ、あんたもいっしょにここで食べちゃいな。
ほら! みひろ! さっさと座る! さ、みんな、いいかい?
それじゃ、せーので!」
「いただきます」(一同)
渋川恵美が音頭をとって、みいつ堂の倉庫のかたすみで、食事会がはじまった。
折りたたみテーブルに、パイプイスといった急なあつらえの会場だったが、まことにとっては、またとない至福のひと時だった。
渋川さんからは、あいかわらずクギをさされはするが、となりに座っている、私服の地之神未愛と、ならんで食事をとれるなんてことは、そうそう、めったにないことである。
当の未愛も、まんざらでもなく、まこととのことを必要以上に気にする様子もない。ただ、自然に、たんたんと、目の前のカレーを、ひょいひょいと、スプーンで、口に運んでいる。
まことは、あまりにも未愛が、カレーをパクパクと、大きな口をあけては、景気良くかぶりついているので、チラッ、チラッと、ついつい、未愛の横顔と、パクッとスプーンをまるでこどものように口にほおばるかのような食べ方に、そのなんともいえないかわいらしさに、自分の食べるのも忘れて、横目でみとれていた。
「ドウシタ、マコチン。マダ、グアイ、ワルイカ?」と、何も事情をほとんど知らないお龍が、まことに聞く。
「い、いえ、お龍さん。あ、あの、とてもおいしいですね、このカレー。」
ぎこちなく、お龍に微笑む、まことを、一瞬だけ、ちらりと、白いシャツ、こげ茶色のスラックスの曲線がまたかわいい、くり色の長い髪の毛を一本三つ編みにしている地之神未愛が、冷静に見つめる。
「ソウカ。ソレナラヨイ。ナニカアッタラ、アタシニモイエ。デキルダケノコトハ、シテクレルゾ」
そう言ってくれるお龍もまた、ひょいパク、ひょいパク、と、大きな口を開け閉めしては、まるで味わうことなく、カレーをスプーンで胃袋に配達してるかのようだ。
「お龍! そいつはあんたの決めることじゃない。仕事の『領分』は、わきまえな!」
渋川の鋭い声が、みいつ堂の倉庫にひびく。
「ああら、渋川サン♡ ぷらいべーとはあ、その限りじゃあ、ないはずよねえ?
ね♡ まっこちん♡」
ちょっと色っぽいハスキーな声で、未愛の義理の姉、地之神未緒が、いたずらっぽく、まことを目で誘惑する。
「ア、ソレ、ダメヨ。ミオサン。アタシ、カレシイナイレキ、コウシンチュウダシ、オトコノコとナニカアッタラ、アタシ、ココニイラレナイコトヨ。マコチン、カワイイケド、ジットガマンナノダ。」
お龍が、ちょっと顔を赤くして、照れながら下を向いている。
「ははあん、お龍ちゃん? さては、おぬし? う・ふ・ふ・ふ♡」
カレーそっちのけで、未緒がお龍のほうに身を乗り出す。
「イ、イヤ、ソノ……。」と、ますます顔を真っ赤にしている、お龍。
「お龍ちゃん! どうお? 今日のカレーの味付けはあ? これなら、だいじょうぶかなあとおもってさあ?」
みひろ、が、助け舟を出す。これでいいんですよね、と渋川さんのほうをちらっと見るみひろに、渋川さんは、すました顔で、目配せをしている。
「まあまあ、未緒ちゃん、あんまり若いコをイジリなさんな。それともなにかい? まことくんのことが気になるかい?」
と、ここは、大人のちょうどいい年齢の男らしく、座持ちをする、黒シャツに、白いスーツの、みいつ堂用心棒の青木。
「あったりまえでしょ。未愛になにかあったら、いくらあたしだって承知しないからね……。」
めずらしく、ふざけていない、真剣な顔つきの未緒は、そう言い捨てると、もくもくとカレーのスプーンを、皿と口とを往復させている。
「未緒ねえさん? あたしなら、ぜんぜん大丈夫ですから。まことさん、いいひとですけど、あたし、タイプじゃありませんし。」
にこやかに言い放つ未愛に、一同が、かたずをのんだ。
まことも、未愛の横顔にみとれながら、軽くやばかった。ちょっとショックの、はたちの青春。
「あら、やあだ、みんな、どうしちゃったんですかあ? たのしく食べましょうよ、ね? せっかくのおいしいカレーですもん♡」
面々の胸中を知ってか知らずか、未愛のこういうところは、わざとではない。「地」なのだ。
「そ、そ、そうね、未愛ちゃん。ありがとうね、おいしいって言ってくれて。あたしもうれしいわっ♡
ねっ? 渋川サン?」
そう言いながらも、みひろの額には、うっすらと「冷や汗」がにじんでいる。楽しいはずの昼食会が、未愛のひとことで、こうも固まってしまうとは、あとはもう、渋川さんに、この場は、任せるしかないと、みひろはとっさに判断していた。
「楽しくなるも、楽しくならないも、気持ちひとつ、ココロひとつ、だわさ。ン、ン、うまいじゃないの、腕を上げたねえ? みひろ?」
渋川さんの一言に、みひろの顔が、ぱああっと笑顔になった。
「ありがとうございまあす! 渋川さあん! もう一皿、いかがですかあ? 厨房から、お持ちしますよう?」
「いや、まことくんが元気だったら、行ってもらうとこだけどね。今日のところは、まだ、そばに未愛がいるから彼の体は「もって」るようなモンだ。この子には、一日もはやいとこ、なおってもらわんと。」
渋川さんは、そう言うと、無言でカレーをスプーンで口に運ぶ。
まことは、自分の立場が、なんとなくは、わかってはいた。ひょんなことから、まるで運命の糸に導かれるようにして、ここ、みいつ堂に世話になっている彼ではあるが、まだまだ、みいつ堂の従業員のみなさんが、感じているような「危機感」は、肌で感じることのできる実感にまでは、いたっていない。
しかし、なんとなく、本当になんとなく、このひとを好きになってはいけない、愛してしまってはいけない、という、そうした直感のようなものだけは、まことは、未愛に対して、それだけは、心のどこかで、わかりかけては、いた。
「さ! みんな! 明るく明るく! これ食べて、お茶飲んだら、今日もけっこう忙しいよオ?
ダイマツ屋のくそオヤジが、夜から客で入ってるからねえ? 未緒ちゃんは、カワイイお尻をなでられないよーに、しっかり予防線、はっときなよオ?」
渋川さんが、にっひひひ、と、口を台形にして、カマボコのような目つきで、未緒を見つめている。
「あたしィ、あのひとオ、タイプじゃないからあ。」
そう、未緒がタメイキまじりに、目を閉じて言い捨てると、未愛だけが、きゃはは、と、ラッキョウが転がっている様子を笑うかのように、大きな声で笑っていた。
まことは、そんな未愛の笑い顔に、カレーを食べつつ、横目でみとれながら、すっかり心を、うばわれていた。
2010年06月25日
不思議百貨店みいつ堂 半熟妖精のタマゴ その7
半熟妖精のタマゴ その7
前回まで
不思議アイテム販売店のみいつ堂で、アルバイトとして働く主人公、南晶まこと(20才・男性)。倉庫の整理中に持病の発作で倒れたが、みいつ堂の16才の「お役目の女」、地之神未愛(ちのかみ みあい)の不思議な力のおかげでなんとか復活。
まことの持病は医者にもわからない原因不明の病気。未愛のもつ不思議な力だけが、発作をとめて症状をやわらげることができる。しかしその未愛にはみいつ堂での仕事があり、まことの治療に専念してばかりもいられない。
みいつ堂の最高責任者、堂主の「おやじさん」は、養女である娘の一人、地之神未智を通して、ある方法をさずけたのだが、事態は思わぬ方向に。
7 倉庫昼食会
みいつ堂の倉庫の片付けは、稼ぎがしらである「お役目の女」、地之神 未愛 の外出時のボディガードを務める「お龍(りゅう)」の手伝いのおかげで、まことが倒れて散らかってしまった分は、なんとか片付いたようだ。
「そろそろ、お昼だねえ。食事にするかい。お龍もおつかれさん。あんたのおかげで、かなりはかどったよ。
未愛! まことくんの様子はどうだい? 起きれそうかあい?」
みいつ堂の清掃係、カーキ色の作業着を着ている、年金生活の渋川恵美が、大きな声をあげた。
「……すみませんでした。渋川さん。また、倒れてしまって……。」
そう言いながら、南晶まことは、ゆっくりと、うつぶせになっていた、みいつ堂の倉庫の床から、半身まで身を起こした。
まだちょっと、肩で息をしているようだ。
「まだ、急に動いてはいけません…。だんだんに、こちらから送る力を……調整……しますから……ね……。」
「…あ、ありがとう。未愛さん……。きみには、こうして何度も助けてもらって……。本当に、ありがとう。」
「………………。も……う、すこ……し、まっていて……くだ……さい。」
「ごめんよ……。すまない。」
そう言いながらも、まことの上半身は、倒れたショックの反動と、未愛のすぐそばにいることが出来る喜びに、かすかに、ふるふると、ふるえつづけていた。
未愛は、白いトレーナーのようなシャツと、こげ茶色のスラックスのまま、まことのすぐそばで、かなり密着するような近くで、正座を続けながら、集中を解く作業にはいっていた。
そんな2人の様子を遠目にみていた渋川さんは、なぜだか、クッ、と、下を向き、じっと倉庫の床をみつめていた。
するとそこに、なにやらいい匂いが、倉庫の扉のむこう、廊下のほうから、ただよってきた。
カレーの匂いだ。
「コレハ、ワタシ、タベコトアル。カリーデスネ、エーミ様。」と、お龍。
「そんなふうにあたしを呼びなさんなって。しかし、こりゃまた、どうしたんだい?」
渋川さんが目を丸くしていると、みいつ堂の倉庫の入り口の扉がひらいて、厨房担当の「みひろ」が、先頭に立ち、配膳車を押しながら、倉庫に入ってきた。
倉庫中に、おいしそうなカレーの香りが、たちこめる。
配膳車の後ろには、みいつ堂の「準・お役目の女」、パープルの制服の地之神 未緒、そしてみいつ堂の「用心棒」の、黒シャツと白いスーツの、青木、がいる。
みひろの押す、人数分のカレーが運ばれている配膳車が、倉庫の入り口のあたりで止まると、みひろと青木、そして未緒が、何も言わないまま、周囲のスペースをつくりはじめていた。
だいたいの空間ができあがると、今度は青木とみひろが、倉庫のかたすみに積まれていた、折りたたみ式のテーブルをひっぱりだし、人数分を、だいたい目と目で打ち合わせながら、「昼食会」のセッティングをしている。
テーブルがまとまったので、未緒のほうは、配膳車からカレーの皿を、ひとつ、ひとつ、テーブルの上に並べはじめた。
青木とみひろは、引き続き、倉庫のすみにあるパイプイスを、テーブルにセットする。
「みひろ! いったいどうしたっていうんだい? あたしゃ、なんにも聞いてないわさ。」と、渋川さんが叫んだ。
まことは、上半身を起こしたまま、なかば、あっけにとられたような態度で、倉庫の「新入り」の3人の様子を見ていたが、彼は、未愛のそばにいられるだけで、満足なのであるからして、騒ぎのほうは、むしろ都合がよろしい。
未愛は、表情にやや、やわらかさが戻ってきていたので、「力」を使う事から、「戻って」きているようだ。あいかわらず目を半分閉じたようなかっこうで、正座を続けている。
みひろ、と呼ばれた小柄な女性は、やはり、みいつ堂の制服を着ている。黄色というか、だいだい色、みかん色に近い色合いのものなのだが、制帽には未緒のような「バッジ」はついていない。どうやら、お役目の女ではなさそうだ。
年の頃は、10代なかばにみえるが、実際は23才である。童顔で、ひとみがくりくりと大きな目をしており、てきばきと、作業をこなしている。よく働く、ベテランの家政婦のような貫禄もあった。ちょっと、くせっ毛ぎみの厚めの髪の毛を、やはり背中でまとめた、黒髪の長髪である。余談であるが、バストがとても豊かな女性である。
「堂主様、じきじきにのおたっしでえす。渋川さあん。あたしも、なにしろ急な事だったのでえ!」と、みひろ。
「言い訳はいいんだよ。みひろ。事務所の電話のほうには未智がいるんだね?」と、渋川さん。
「はああい。そーでええす! おバアちゃま、おおあたりいい!」
「コラッ! みひろっ! あたしゃまだ70前だよ! 70前! バアちゃんなんてなあ、孫のいるモンが呼ばれることさね!
あたしはまだまだ『若い』ンだからねっ!」
渋川さんが、めずらしく笑顔で、ほほえんでいる。
「エーミ様、ワカクナイヨ? シワシワノ、サカアガリダヨ。アタシ、チャントチャント、ヨクワカルノヨ。
ダッテ、コノマエイッショ二、オセン、二、イタトキ、ビクリシタサア。
コウ、オパーイガコウ!」
お龍が、自分の胸を、思いっきり、床の方に向けて、引っぱる仕草をしていると、みひろと、未緒が、たまらず笑い出した。
「これ! お龍や! よけいなことをお言いでないよ! それからね、それを言うなら、さかあがり、じゃなくて、垂れ下がり、ださね。」
なかば、タメイキまじりの渋川さんは、やれやれといった様子で、怒る事などあきらめている。
「カンベンしてくださいよ、渋川サン。夢に出てきそうですぜ。」
いちはやくテーブルの席に陣取っている青木が、頭を片手で抱えながら、悪態をついている。
「おやおや、アオさんやい。未智にやさしくしてもらってないのかい? なんなら、コンバン、アタシが代わりにハリキッテあげようかあ?」
地獄の底からわき上がるかのような声と、ホラー風味な渋川サンの表情に、お龍と、みひろは、たまわず笑い転げている。
「いや、そいつあ、間に合ってますぜ。渋川の姐さん。お気持ちだけ、ありがたくいただいときます。」
青木が、腕を組みながら、目を閉じてそう言い捨てると、近くで2人のやりとりを聞いていた未愛の、目を閉じた顔が、クスっといっしゅん、天使の微笑みのように、輝きながら、まことの目に、焼き付いていた。
2010年06月24日
不思議百貨店みいつ堂 半熟妖精のタマゴ その6

半熟妖精のタマゴ その6
前回まで
不思議アイテム販売店のみいつ堂で、アルバイトとして働く主人公、南晶まこと(20才・男性)。倉庫の整理中に持病の発作で倒れるが、みいつ堂の16才の「お役目の女」、地之神未愛(ちのかみ みあい)の不思議な力のおかげで回復。
まことの持病は原因不明。医者にもわからない病気。未愛のもつ不思議な力だけが、発作をとめることが出来て、症状をやわらげることが可能。しかしその未愛にはみいつ堂での仕事があり、まいたびまことの治療に専念するわけにもいかない。
みいつ堂の最高責任者、堂主の「おやじさん」は、養女である娘の一人、地之神未智を通して、次の策である、「とある力を秘めた妖精」をまことに授けることにしたが、その決定は、みいつ堂従業員たちに波紋をよぶ。
6 半熟妖精なるもの
みいつ堂の事務所に黒いふろしき包みをかかえて入って来た、地之神 未智 店長は、空いている机を選ぶと、机の上に包みをおき、無言のまま、イスに腰掛けた。
未智の表情は、おだやかではない。机の上で、両手を組み合わせて、白いチャイナドレスふうの店長服が、体にぴちっとはりつくぐらいに、肩をいからせて、背中を丸めている。
未智の目は、それでも静けさと落ち着きを失わずにはいたが、じっ、と、机の上の黒いふろしき包みを、まるでにらみつけているかのようだ。
事務所、同室にいる、未智の義理の妹、地之神 未緒 が、制帽とパープルの仕事着、つまり制服を、まるでファッションショーの新作発表会をしているかのような歩き方で、しゃなり、しゃなりと、義姉の未智のそばに近寄った。
「一杯、どう? ミッチ姉? ブランデーの、いいのが、あるんだけど。」
未緒が、冗談とも本気ともとれないことを言い出したので、同室でスポーツ新聞を読んでいた白服、黒シャツの青木が、止めに入る。
「未緒ちゃん。まだ昼なんだぜ。せめてうすめのビールにしておけよ。」
「あら、アオさん? おつまみは何がいいかしら? ねえ、奥様?」
そう言いながら、未緒は、未智の横顔を、ちら、と見るのだが、未智は、チャイナドレスふう店長服の、スカートのスリットからみえかくれする白い足をちょっと組み直したぐらいで、未緒を相手にしていない。
「これがどういうことになるか、堂主様、お義父さまは、なにもわかっていらっしゃらないんだわ……。」
未智が、しぼり出すような声で、つぶやいた。
「あら、ミッチ姉、おつまみは、洋風? 和風? それとも中華がよろしゅうごじゃりますかしら?
なんでしたら、とびきりの美少年のボーイに、もってこさせますザンス?」
未緒が、ふざける。
「なんにもわかってないのよッ!」
ダン! と、未智は、両手のこぶしを握りしめ、机に叩き付けた。やり場のない気持ちを、こうするしかないのである。
「……………。」
未緒は、まゆひとつ動かさず、表情ひとつ変えずに、未智に応じた。
「そいつかい? その包みの中だね、タマゴは……。
半熟妖精……。あたしも、何度か、あつかったこともあるし、どうなったかは、話に聞いてるけど……。
……けどさあ、ミッチ姉……。今のところ、それしかないんだろ? まこちんの、病気にはさあ……。」
まこちん、とは、みいつ堂の倉庫で倒れた、南晶まこと のことだ。
「あたしが心配なのは、彼の病気のことじゃないの!」未智が言う。
「………未愛ちゃん、とのことか………。」と、青木。
青木も、アオさんも、2人と同じ事を、心配していた。
「未愛は、若すぎるわ……。まだ16よ……。そして、まことくんは、ハタチとはいえ、まだ『子供』……。あたしは……、あたしは……、あたしさえあの時………!」
青木の表情が、グッと険しく、視線は虚空をにらみ、くちびるは真一文字に結ばれる。
未緒が、ある危機感をとっさに読み取って、道化に徹し始める。
「お客様。こちらの『半熟妖精』なる商品でございますが、まれにみる一品でございます。
なにしろ、半熟のまま、タマゴからかえる妖精でございますので、生まれましたあとは、お客様と一心同体。お客様が、半熟から『成熟』に育てていただくことになりますわ。
しかも、この半熟妖精、一度タマゴをあたためた『宿主』の、分身にもなってございます。お客様がお望みになる時、いつ、どこでも、どんな時でも、『宿主』様と、こちらの半熟妖精を間にいれまして、思いや気持ちや『力(ちから)』が伝わる、それぞれが心に描く事のやりとりが出来てしまうというスグレものでございます。
おたがいに、これはある程度の距離ではございますが、離れていた場所におりましても、いつでも気持ちはツーツーカーカー、以心伝心、それがこの半熟妖精のもつ、たぐいまれなる力なのでございます。
くれぐれも、妖精のお世話と、取り扱いには、ご注意のほどを、よろしくお願いいたします。」
額にあぶら汗をにじませている未緒は、しゃべり終わると、青木のほうを見る。
青木は、未智から目をそらしながら、小さなか細い声で「すまん……。」とつぶやいていた。
「……ごめんなさい。これは言わない約束だったわよね……。本当にごめんなさい。」
未智が、落ち着きを取り戻したかのような、冷静な声で、そう言うと、未緒のほうをくるりと見た。
「今日のお昼は、カレーよ? しかもね、みんなで倉庫で食べるの!」
ニコッと、未智が、目を細めては、未緒に微笑み、そして次に青木に顔を向けて、同じように微笑んだ。
心の中で、ホッと胸をなでおろしたパープル制服のみいつ堂の準・お役目の女、地之神未緒が、腕組みをしながら悪態をつく。
「ええええ? まあたカレーええ? しかも、なんで倉庫お? なによ、それ。どういうことよォ!」
「ね? あなた? あなたもいっしょに、倉庫でね? アオさん?」
未智の表情からは、さっきまでの険しさは消えていた。
「あ、ああ。わかった。倉庫だな?」
「事務所の電話番は、台所が終わった、みひろ ちゃんにお願いしてあるからね。お義父様は、お仕事がたまってるから、お部屋で召し上がるそうですけど。」
未緒がつづく。
「カレーはカレーでもさ、ちょっとは風味を変えてあるんだろうよねえ。南極大陸風味とか、北極味とかさあ。」
「どこのカレーだよ、それ。」と、苦笑いの青木。
「ううん? みいつ堂特製カレーでございますわ、お客様?」と、未緒。
未緒も、未智も、笑顔で、ほほえんでいた。
2010年06月23日
不思議百貨店みいつ堂 半熟妖精のタマゴ その5
半熟妖精のタマゴ その5
前回まで
不思議アイテム販売店のみいつ堂で、アルバイトとして働く主人公、南晶まこと(20才・男性)。倉庫の整理中に持病の発作が起きて倒れるが、みいつ堂の16才の「お役目の女」、地之神未愛(ちのかみ みあい)の不思議な力のおかげで、ことなきを得る。
まことの持病は原因不明のもの。医者からもさじを投げられている。未愛のもつ不思議な力だけが、彼の持病の発作をとめ、症状をやわらげることが出来るのだが、未愛にはみいつ堂の仕事があり、いつでもどんな時でも、その力を彼に使うわけにもいかない。
まことのアルバイトには、「治療」の意味もあるのだが、みいつ堂の最高責任者、堂主の「おやじさん」は、養女である娘の一人、地之神未智を通して、次の策である、「とある力を秘めた妖精」をまことに授けることに。
5 未緒という女
「今日のお昼、メニュー何?」
みいつ堂の事務所に戻って来た白いスーツに黒シャツの男、青木に、その女がまっさきにたずねたのは、昼食の中身のことだった。
この女、地之神未緒(ちのかみ みお)。20代後半の、ちょっとゆったりした感じの、まるで女優のような風貌の女性。
頭には「制帽」をかぶり、パープルの仕事着を着ている。未愛ほどの力は持っていないのだが、「お役目の女」に次ぐ、とある仕事をみいつ堂にて、受け持っている。
性格は、その、いっけん可愛くて人のよさそうな外見とはうらはらに、お気楽で、少々「ドライ」な一面もある。みいつ堂での彼女、未緒の立場は、準・お役目の女、といったところで、ある程度のところまでは、未愛と同じような仕事をこなすことが出来る。
その仕事のために、恋人もなく、彼氏も作れず、結婚して子供を産むことも許されない。せいぜい、義理の姉の亭主であるこの男、青木のことをからかうのが、せめてもの未緒の「なぐさみ」であった。
むろんのことではあるが、未緒もまた、未愛とおなじように、男性と深い関わりをもつことは、徹底的に禁じられている。抱きしめたり、抱きしめられたりはもちろん、恋愛感情を、実際の証しある行動や態度にすることすら、処罰の対象になる世界である。
これはしかし、女性同士の場合においてもその通りであり、常に「清らかな」状態を維持することが、この「お役目」の仕事をする上での絶対の義務、役目を続けていくための、非情の「掟(おきて)」となっている。
青木については、この辺の事情を誰よりもよく理解している数少ない男性の1人であるため、未緒は安心して、日頃のウサをはらすことが出来る。
青木もこれをよく心得ていて、未緒の屈折した「うさばらし」を受け止めるのだが、もし、仮に、なにかの男女の「まちがい」があった場合、彼の命は、その時点で「命は無い」ことになる。とある不思議な力により、この世での存在を抹殺されてしまうのだ。
この世ともあの世ともつかぬ世界に送られ、数百年とも、数千年ともつかぬ苦しみの世界におかれ、ありとあらゆる苦痛に、身も心も支配されることになる。
「昼飯か……。厨房の近くは通らなくてな……。すまんが、今日は、わからん。」
「ふううん。ま、いいんじゃない? お龍も来てることだし、あいつも食べやすいメニューになってるとは思うよねえ…。」
ついさきほどの、倉庫での一件のことは、まったく未緒の頭にない。
未愛とお龍の、料亭での外食のことも、また、それがお流れになったことも、未緒は、知らないし、聞かされていない。
「ね? アオさん?」
事務所の中の、自分の机に戻り、イスにどっぷりと深く体をうずめている青木に、未緒がたずねる。
「あ・た・し・キレイ?」
せいいっぱい、目を細めて、なまめかしく体をゆすりながら、未緒が青木をからかう。
「今日も明日もあさっても、賞味期限なしで、とってもキレイだぜ。」
青木、アオさんも、負けてはいない。
「うふ♡ いいのよお? ホントのこと言ってもさあ? 未智義姉さんには、だまっといてあげるからさあ?」
そう言って、未緒は、横を向いて、青木に向かって、長い髪をかきあげながら、両手で後頭部をかかえて、うしろに体をそらせながら、ポーズをとっている。どうやら、本人の意向としては、セクシーポーズで、女の武器を、試しているかのようでもある。
「そのへんにしておけよ? 未緒ちゃん。なにかあったら、俺だけじゃねえ、未緒ちゃんも監獄行きなんだぜ?」
「わかってるわよう。だからスリルがあって、『寸止め』がオモシロイんじゃあ、ないのさ。」
「まったく……。客にもこういうことやってんじゃあないだろうなあ。ええ、おい?」
「あたしも、そこまで馬鹿じゃないよ。それよりさ、こういうことって、どォんなコトなのかなあ? アタシにもわかるようにい〜、お・し・え・て!」
こりない女である。
青木は、相手にしながらも相手にせず、未緒の話を聞くともなく聞きながら、スポーツ新聞に目を通し始める。
新聞に注意を奪われた一人の、小悪魔になりきれない半熟未緒ちゃんは、青木への攻撃をあきらめて、おとなしく机の席についていた。
しばらくしてから、事務所のドアがひらき、黒いふろしき包みをかかえた未智店長が、重い足取りで、中に入って来た。
謎の美少女B2